IFRS 18 の核心:損益計算書の5つの区分を理解する
IFRS 18 では、損益計算書(Statement of Profit or Loss)を「5つの区分」に分けて表示することが求められています。
これは、従来の IAS 1 よりも内容がはっきり整理されており、財務諸表の読み手が会社の収益構造をより理解しやすくなるように作られたルールです。
この5区分は次のとおりです。
- Operating(営業)
- Investing(投資)
- Financing(財務)
- Income taxes(税金)
- Discontinued operations(非継続事業)
それぞれの区分は、「どの種類の活動から生まれた損益なのか」を明確にするためにあります。

Operating(営業)区分
もっとも重要な区分であり、会社の本業に関わる収益と費用が入ります。
- 売上(Revenue)
- 売上原価(Cost of sales)
- 販売費および一般管理費(Selling & administrative expenses)
- 減価償却(Depreciation)
- PPE の減損損失(Impairment loss)
- PPE 売却損益
これらは会社の“基本的な稼ぐ力”を示すものです。
Investing(投資)区分
投資目的で保有している資産から生じる損益をまとめます。
- 関連会社の持分利益(Share of profit of associates)
- 投資物件の公正価値の増減
- 金融資産の評価損益や利息収益
- 投資不動産の賃料収入
会社の本業とは関係ない「投資活動」に関する損益が整理されます。
Financing(財務)区分
借入金などの負債に関連する損益をまとめます。
- 借入金の利息費用
- 社債の評価損益
- リース負債に対する利息
- 償還義務のある優先株式の配当
「資金調達に伴う費用」がここに入ります。
Income taxes(税金)区分
法人税に関する費用や調整項目をまとめます。
- 当期の法人税
- 遅延税金(Deferred tax)
税金関連はすべてこの区分にまとめられるため、非常に分かりやすくなっています。
Discontinued operations(非継続事業)区分
会社が売却した事業など、「今後は継続しない事業」の損益です。
例:会社がある部門を売却した場合のその部門の損益。
この区分が作られた背景
IFRS 18 が新しく導入された理由は、次の2つが大きい目的です。
- 企業間の比較をよりしやすくするため
- 財務諸表の読み手への説明責任を高めるため
たとえば、いままで国や企業によって「営業利益の考え方」が異なっていました。
IFRS 18 によりルールが統一され、投資家が企業の収益力をより正確に比較しやすくなっています。
IFRS18 が義務化した“3つの小計”と損益計算書の完成
IFRS 18 では、すべての企業が 必ず表示しなければならない 3つの小計 を定めています。
以下の3つです。
- Operating profit(営業利益)
- Profit before financing and income taxes(営業+投資の利益)
- Profit or loss(当期利益)
Operating profit(営業利益)
営業カテゴリに含まれるすべての収益と費用を合計した金額です。
会社の“本業の力”を示すため、もっとも注目される数値と言えます。
Profit before financing and income taxes
これは「営業利益+投資利益」と考えると理解しやすいです。
- Financing(財務)
- Income taxes(税金)
この2つを除いた利益となります。
企業の本業+投資活動の成果を把握できるため、企業の基礎的な収益力が見やすくなります。
Profit or loss(当期利益)
損益計算書の最終行に表示される「当期の最終的な利益」です。
- 営業
- 投資
- 財務
- 税金
- 非継続事業
これらすべてのカテゴリを合算した最終結果です。
IFRS18 の標準フォーマット(イメージ)
IFRS 18 では、実務や試験で使われる「標準的な損益計算書の形」を示しています。
- 売上
- 売上原価
- 販管費
- 営業利益
- 投資利益
- ファイナンス費用
- 税金
- 当期利益
- OCI
- 包括利益
といった流れで表示され、読者にとって非常に分かりやすい構造です。
IFRS 18 で何が変わったのか?
大きな変更点は次の2つです。
- 「営業利益」が国際的に統一された
- 損益計算書の区分と小計が明確にルール化された
その結果、企業比較がしやすくなり、財務諸表の透明性が大きく向上しています。
Operating Expenses の2つの表示方法:性質別と機能別の違い
損益計算書では、営業費用(Operating expenses)をどのように分類して表示するかを決める必要があります。
IFRS 18 では、企業は次の 2つの方法 から選ぶことができます。
- 性質別(By nature)
- 機能別(By function)
どちらを選んでも構いませんが、「財務諸表の利用者にとって分かりやすい方法」を選ぶことが重要です。
性質別(By nature)とは?
費用を、そのままの“性質(種類)”ごとに分類する方法です。
たとえば:
- 人件費(Employee benefits)
- 原材料費(Raw materials used)
- 減価償却費(Depreciation / Amortisation)
- 研究開発費(R&D)
数字がどの種類のコストなのかがそのまま分かるため、とてもシンプルです。
メリット
- 分類が簡単
- 製造業よりもサービス業のような業態に向いている
- 恣意的(任意の)配分が不要で客観性が高い
デメリット
- どの部門でどれくらい費用が発生したか分かりにくい
機能別(By function)とは?
費用を「どの活動(機能)のために使われたか」で分類します。
たとえば:
- 売上原価(Cost of sales)
- 販売費(Selling expenses)
- 一般管理費(General & administrative expenses)
製造業でよく使われます。
メリット
- 利益構造(粗利益など)が分かりやすい
- 多くの上場企業が採用している
- 投資家にとって理解しやすい
デメリット
- 製造原価の“配分(allocation)”が必要で、判断が難しい
- 主観(経理判断)の影響が入りやすい
IFRS18 の要求:機能別表示の場合の追加開示
企業が「機能別」で表示する場合、次の内訳を注記で追加しなければなりません。
- 減価償却費
- 人件費
- 材料費
これは、機能別表示では費用の細かい種類が損益計算書上で見えづらくなるためです。
試験のポイント
- 問題文で「性質別で表示せよ」「機能別で表示せよ」と指定される
- 性質別と機能別を混在させない
- 非継続事業や特別損失などの「重要項目」は別途表示する
ACCA FR では「分類を正しく選ぶこと」が採点ポイントになります。
その他の包括利益(OCI)の構造と表示ルール
次に、損益計算書とセットで理解すべき「OCI(Other Comprehensive Income)」について説明します。
OCI は簡単に言うと、当期の損益に入れず、その他包括利益として扱う項目です。
企業の経済状態をより公平に表すための仕組みです。
OCI に含まれる主な項目(試験範囲)
ACCA FR の範囲では、主に次の項目が重要です。
- 固定資産の再評価差額(Revaluation surplus)
- 株式の公正価値の変動(FVTOCI)
- 為替換算差額(Foreign currency translation)
- 上記に対する繰延税金(Deferred tax)
これらは「利益操作を避ける」目的で profit or loss に入れず、OCI に計上されます。
OCI は2つのグループに分類される
IFRS 18 では、OCI を次の2つに分けて表示することを求めています。
① 将来 profit or loss に振り替えられない項目(No recycling)
例:
- 固定資産の再評価差額
- FVTOCI 株式の評価差額
→ これは将来 profit or loss に戻さない
② 一定の条件が満たされると profit or loss に振り替えられる項目(Will be reclassified)
例:
- 為替換算差額
- FVTOCI の債券評価差額
→ 売却時などに profit or loss へ移動する
試験では主に ①の「戻さない項目」 が出題されます。
OCI の表示方法(Net of tax / Before tax)
企業は次の2つの表示方法から選べます。
- 税金控除後(Net of tax)でまとめて表示
- 税金控除前(Before tax)で表示し、税効果を別行で示す
どちらでも構いませんが、
Before tax を選ぶ場合は 税金の影響を項目ごとに説明する必要があります。
4.4 利用者にとっての OCI の意味
OCI は profit or loss に比べて直接的な利益を表すものではありませんが、
企業の経済的な価値変動を表す重要な指標として使われます。
たとえば:
- 不動産の価値が大きく上昇した
- 外貨建て資産の価値が変わった
といった情報は、企業の将来を判断するうえで強い影響を持ちます。
Statement of Changes in Equity(SCE)の作り方と見方
Statement of Changes in Equity(純資産変動計算書)は、
企業の純資産(Equity)が、期首から期末までどのように変化したのか をまとめて示す財務諸表です。
読者にとっては「企業の内部にどれだけの価値が積み上がったか」を把握するための大切な情報源になります。
純資産変動計算書の目的
SCE の目的は次のとおりです。
- 企業の利益がどれだけ純資産に積み上がったか
- 配当(Dividends)によってどれだけ純資産が減ったか
- OCI によりどれだけ純資産が変動したか
- 株式発行による資本増加がどれだけあったか
- 非支配持分(NCI)がどのように変動したか
つまり、純資産の「動き」をすべて一覧で示すことが求められます。
IFRS18 が求める内容(必須項目)
SCE には必ず次の内容を含める必要があります。
- Total comprehensive income(包括利益)
・Profit(利益)と OCI の合計
・親会社所有者と非支配持分(NCI)に分けて表示 - 会計方針の変更や過年度修正の影響
・IAS 8 に基づく「遡及処理」の影響を各項目に反映 - 期首残高 → 期末残高の“完全な調整表(Reconciliation)”
各項目ごとに
- Profit
- OCI
- Transactions with owners(配当・増資など)
を分けて表示 - 各種の Equity の構成要素
- Share capital(資本金)
- Share premium(資本剰余金)
- Retained earnings(利益剰余金)
- Revaluation surplus(再評価差額)
- Non-controlling interest(非支配持分)
列形式(Columnar Format)が一般的な理由
IFRS 18 はレイアウトを細かく定めていませんが、
実務では下記のような「列形式」が最も使われています。
| Share capital | Share premium | Revaluation surplus | Retained earnings | NCI | Total equity |
この形式が推奨される理由は、
どの項目がどのように変化したのかが一目で分かるためです。
試験で問われるポイント
ACCA FR では次の点がよく出題されます。
- SCE の構造を正しく理解しているか
- Profit / OCI / Dividends の分類ができるか
- Share capital や Share premium の変動を正しく処理できるか
- NCI を親会社と分けて示すことができるか
SCE は、損益計算書や財政状態計算書と比べると難しく見えますが、
構造が分かればとてもシンプルです。
「期首 →(利益+OCI+配当+増資)→ 期末」の流れを意識すると理解が速くなります。
Notes(注記)の構造と IFRS18 が求める開示ルール
Notes(注記)は、財務諸表の内容をより深く理解してもらうための“説明パート”です。
財務諸表本体(損益計算書や貸借対照表)は数字が中心ですが、
Notes は「その数字がどうやって計算されているか」を説明する役割を持っています。
Notes に必ず含めるべき内容
IFRS 18 では Notes に次の項目を含めるよう求めています。
- 財務諸表の作成基準(Basis of preparation)
例:IFRS に従って作成していること、測定基準(Historical cost / Fair value)など - 会計方針(Accounting policies)
減価償却方法、収益認識、在庫評価方法など - 財務諸表の各行項目に関する内訳
例:
・売掛金の内訳
・減価償却の内訳
・固定資産の金額の動き
・負債の詳細 - その他必要な項目
・偶発債務(Contingent liabilities)
・コミットメント(Commitments)
・金融リスク開示(Financial risk disclosures)
・非財務情報(環境・人材など)
Notes は、読者にとって「財務諸表の裏側を理解するためのガイド」のような役割があります。
Notes の並べ方(順序)
IFRS 18 は具体的な順序を定めていませんが、
systematic manner(体系的に整理された順序)であることを求めています。
実務で一般的なのは次の並びです。
- IFRS に準拠している旨の声明(Compliance statement)
- 会計方針(Accounting policies)
- 財務諸表の各項目に対応した注記
- その他の注記(リスク、偶発債務、資本管理など)
この順序なら、読む人にとって非常に理解しやすくなります。
Notes で特に重要な開示(IFRS18 で強調されている点)
① 資本管理(Capital management)
企業がどのように資本を管理しているかを説明することが求められます。
例:
- 資本構成の方針
- 財務健全性の目標
- 外部から課される規制の有無
② 株式資本に関する情報
企業が発行している株式について、次の情報を開示します。
- Authorization(発行可能株式数)
- Issued(既に発行された株式数)
- Fully paid(払込済株式)
- 期首 → 期末 の株式数の調整表
③ 配当の開示
期末後に宣言された配当や、当期に支払った配当についても説明します。
試験で問われるポイント
- Notes の目的を説明できるか
- 会計方針や義務的開示の内容を理解しているか
- 財務諸表本体と Notes の“クロスリファレンス”の概念を理解しているか
- IFRS に準拠した開示を行えるか
Notes は文章中心ですが、FR 試験では必ずしも長文を書く必要はありません。
必要な項目を整理して、簡潔に説明できれば得点につながります。
IFRS 18 の表示ルールを理解するための重要ポイント
本記事では、IFRS 18(Presentation and Disclosure in Financial Statements)が求める、
損益計算書・純資産変動計算書・注記の主要なルールについて解説いたしました。
特に重要な点を以下に整理いたします。
1. 損益計算書の5つの区分を理解することが最初のステップ
IFRS 18 の大きな特徴は、損益計算書を
Operating / Investing / Financing / Income taxes / Discontinued operations
の5つに分ける点です。
この区分を理解することで、企業がどのように収益を上げ、どの活動により費用が発生しているかが明確になります。
「どの活動の結果なのか」を正しく分類することが、最も重要なポイントです。
IFRS 18 が求める「3つの必須小計」を押さえる
損益計算書には必ず表示すべき小計が存在します。
- Operating profit(営業利益)
- Profit before financing and income taxes(営業+投資利益)
- Profit or loss(当期利益)
この3つは、企業の収益力を判断するための大切な指標であり、
試験でも実務でも欠かせないポイントです。
Operating Expenses の表示方法は2種類
営業費用は
性質別(By nature) または 機能別(By function)
のどちらかで表示します。
企業の業態や利用者にとっての分かりやすさを考えて選択されます。
機能別を選ぶ場合は、注記で性質別の内訳を追加で示す必要があります。
OCI(その他包括利益)は profit or loss に含まれない重要項目
OCI は profit or loss に含まれず、
企業の資産価値や金融商品の評価変動など、長期的な影響がある項目を示します。
- 将来振り替えられない項目
- 条件付きで振り替えられる項目
の2つに分けて表示することが求められます。
Statement of Changes in Equity は純資産の「動き」を示す表
純資産変動計算書では、
- 利益
- OCI
- 配当
- 株式発行
- 非支配持分の変動
などを「期首から期末までの変化」として一覧で表示します。
列形式で作成することで、各項目がどのように変化したのかが分かりやすくなります。
Notes(注記)は財務諸表を理解するための説明書
Notes には、
- 会計方針
- 測定基準
- 財務諸表の各項目の詳細
- 資本管理や株式に関する開示
などを体系的な順序で示すことが求められます。
注記は、財務諸表の数字を裏付けるために非常に重要な役割を果たします。
最後に
IFRS 18 は、財務諸表の透明性と比較可能性を高めるために導入された国際的な基準です。
最初は複雑に見えるかもしれませんが、区分や小計の考え方が理解できると、
財務諸表の読み方が大きく変わります。
本記事が IFRS 18 の理解に少しでもお役に立てば幸いです。

